匣*hako
投げた言葉のゆく先は



[call]


誰の名前を 呼んでいたのか

ずっと

呼び続けていた気がしたけど

どこかに辿り着きたくて

空想の世界に入り浸った

どこにもない場所に憧れて

夢見ることに慣れてしまった

擦り切れた名前は

誰のものでもなくて

ずっと

声はまだ 嗄れないまま



2011/04/07





[orion]


堅い道の上に立っていた

見上げれば星 その天の高さに

あらためて距離を感じた午前零時

二つの足は正しく進み

携帯が照らす夜道を急ぐ

オリオンは見つからなかった

北極星は見つけたことがない

足は正しくアスファルトを踏みつけ

溶け込んだ影が私を地面へ縛り付ける

私が愛した君の名も

いつか星になるだろうか



2011/04/10





[peace to my ashes]


やさしい言葉を聞きたくて

ずっと詩を真似てきたけど

がらんどうのこの胸から

あふれる言葉は今日も軽くて

無残にも残骸をさらしている

なあ 僕の灰

どうせむなしく崩れていくなら

出来るだけ同じ大きさの

細やかな白い粒になれよ

そうしたらきっと

僕は砂時計になれる



2011/04/11





[遺書]


人が二度死ぬというのなら

かの王様の死はいつ訪れる


五十年か百年か

僕たち凡人の一生よりは

たぶん長い


はるかなときを 幾世紀とまたいで

悠々とその笑みを見せるのだろうか

シェイクスピアやベートーベンのように?


ソクラテスやクレオパトラだって

いつかは死を迎えるかもしれず

必ずしも残された記録が

存在とイコールではないけれど


人間五十年 今なら百年

誰かの頭に残れなくとも

君の心にいれたらいい




いつか そう遠くはない未来

君が穏やかに死を迎えるとき

僕もまた 一度死のうか



2011/04/12






[tower]


無意味を求めて

僕は退廃を築いた

堆く積まれた黒い山を

そのまま心なんて

安直な考えは捨てたけど


喉を潤すほどの涙は流せないよ

渇きを生むほどの絶望は知らないよ

それなりに

幸福だったり不幸だったりしてるよ

僕らは大人になって

互いの歪を理解して

自衛の棘を張り巡らせて

距離の取り方がうまくなって

退廃の黒い塔が

誰の前にも誰の後ろにも存在し得て

すべてではないことを

僕らはとうに知ってしまったよ


無意味な言葉を集めて

非生産の極みを危なげに横切って

崩れようが崩れまいが

残骸の黒い塔

どうかいつまでも

お前を築き続けていたい



2011/04/14





[Gone with the spring.]


水底に

うつしとった光の波紋

桜が散って

いま 夏が目覚める

私の想いは春と逝き

ただ水底に沈むばかり



2011/04/17





[深海魚]

吐き出した溜息が

泡のように昇っていけば

まだ心も晴れただろうに



2011/04/20





[Rain]

雨が降る

苔のにおいが舞い上がる

蝉はまだ土の中

終わらない夏を待っている



2011/04/27




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