匣*hako
絡んだ言葉をほどくような



君は見ただろうか彼の絶望をそれとも眼を伏せ拒絶しただろう
か余りに黒く余りに鈍く僕と君の心臓から伝播する汚泥を僕等
から生み出される醜悪な夜明けの残滓を僕らは   身を浸す
事すら出来ずさ迷える旅人の様に空虚な眼で破 生 からはみ
出した血と泥に飾られた素足を見る痛覚は僕等 き ない焦が
れる様に熱に焼かれた黒い土瀝青のように焦が ま され僕等
は気付く最早僕等に何の術も残されていない事 し 気付く最
早君の元へ此の声は届かないという事に君は凶 ょ の胸に埋
めた儘赤い靴を切り落とさずに踊る夜明けを知 う を見る事
も知らず踊る事も知らず君は狂喜に歌う振りを   当は何も
かも知っている其の深い深い硝子玉の様な眼で 逝 見た其れ
は絶望の色をしていただろうかそれとも拒絶の き 上げただ
ろうか汚泥の醜悪さで君に迫ったかもしれない ま 満ち空虚
さしか持たずあるいは凶器を埋めたまま狂喜す し りすら見
せて君は見ただろうか此の心に巣喰う何よりも ょ たい恐怖
伝播する汚泥そうして僕を満たした彼の黒い塊 う 侵し渾て
を犯し何もかもの内に呑み込まれ何もかもを内   み込むそ
うそれは僕等から伝播する汚泥耳障りな音を孕 で ら僕等の
内を這いずり回る意思を持たず意思を保つ様に も 側から熔
解し疲弊しやがて消耗する飢餓を与えられ欲し 何 を奪われ
て僕等は泥に成る君は人形に成る糸を絶ち只見 処 ことだけ
を許した汚れなき人形に成る君が見た絶望は僕 へ 拒絶僕等
が見た醜悪な夜明けは君が見た狂喜しか持たな   闇が訪れ
るままに僕等は眼を閉じ与えられる闇を拒み内 ? に帰って
行く嗚呼君は帰るだろうか其れを見ても猶未だ   と望める
だろうか其れを生み出した僕は君と繋ぐ手を無くし君を踏みつ
ける為の足を千切り君を抱く筈の腕を溶かし君を見る為の眼を
貫き君を求める心臓を抉りそうして泥になって僕は嗚呼僕は君
と同じ絶望を見たいと泥で満たされた濁った両眼で君の姿を見
ようとして或いは其の時僕が見た君の姿こそが君の見た凶器で
あるかも知れず君は物言わぬ人形と成り泥になる嘗て君が見た
彼の真っ暗な濁った水槽の底で僕等は泥になる一つに成る独り
になる孤独になる僕等は絶望を分かち合い解け合いきれない絶
望を知る甘美な毒に此の身を墜とし君の躯を叩き割る粉々砕け
た君の腑から懐かしい芳香と共に泥が僕に纏い付く僕の足下に
落ちた君の硝子玉が僕の砕けた貌を見てそこに絶望を見るだろ
う僕が成り得た絶望を知るだろう暗い暗い水槽の底で僕等は祈
る様に互いを壊し崩し融かし狂わす其れこそが僕等に残された
最後の兇器渾てを奪い全てを満たし総てを見る僕等の内に巣喰
う汚泥其れこそが君が見た絶望僕の求めた渇望僕等の出す答え



水槽の中で静かな音を聴く貴方が壊れる音を聞く私が崩れる音
を訊く貴方は何処に居たのですか私は何処に行ったのですか私
の眼が暗く澱んだ水槽の底に落ち貴方の根元へ転がるひび割れ
た眼球から濁った涙が溢れ出る汚れてしまったと云うなら疾う
に汚されてしまったと云うなら望み通りに失われた躯から鈍い
痛みが駆け上がる其れは嘗て貴方という個でした其れは嘗て私
という位置でした総ては澱んだ水槽の底に纏い付いた泥は離れ
ない何処までも何処までも墜ちて堕ちて逝くと言うのなら嗚呼
貴方の望み通りに私の望み通りに此の汚泥に満たされて崩れた
躯で踊りましょう捩れた足が嗤ってい居る千切れた腕が凍えて
居る此処はこんなにも暖かいと云うのに貴方の温度が私に伝わ
り渾ては水槽の中澱んだ泥に包まれて絶望の眠りに落ちる甘美
な誘いが私の眼を奪い貴方の心臓を満たす醜悪な朝日は打ち砕
かれ泥の底で侵される其れは或いは貴方で在り或いは私達の全
てだった黒い水面が砕かれた頬を舐める私を貫いた貴方の凶器
が私の胸   醜悪さで模った貴方の狂喜が私に届く其れはも
う遠い噺 行 形に成り貴方は泥に成り私は泥に成る空虚な内
側が貴方 き 播する汚泥に満たされる零れた腑が胎内へと還
る嗚呼私 ま なり貴方は独りになる泥で満たされた胎内を繋
ぐ言葉は し しまった物言わぬ人形は貴方の足元に転がり拒
絶される ょ って居る水底は遠いもう絶望は乾いてしまった
貴方は知 う う私の見た渾てを私たちの見た拒絶を此の身を
裂いた空   つか水底に沈む凶器を知るだろうその身から伝
播する汚 征 の内に巣喰わせながら堕ちる陽を知って居る貴
方は私の き 嘆いただろうか悔いただろうか其処に絶望は在
っただろ ま 方が見た私の眼に醜く走るひびを貴方は知って
居ただろ し て知るだろういつか沈む身もいつか解け合う身
もいつか ょ う身も暗く澱んだ水槽が其処に堆積する余りに
も醜い泥 う の内を食い破り手招きする事をひび割れた眼球
が黙視す   は何れ果てるとも知らず涯てすら知らず辿り着
く地も知 な の醜く馨しい汚泥が私達を招く彼の闇の底へ貴
方を連れ ら う貴方が知る様に其れこそが私達の絶望と嗚呼
私達の見 ば が彼の水槽で嗤って居る私の拒絶が砕け散り全
ては空虚 何 やかに消える私の胸に埋まる凶器は貴方が突き
立てた狂 処 うとも知らず貫く事しか求められず嘗て堕ちた
彼の底へ か 時は未だ来ず貴方から移る此の汚泥が醜い音を
立てて醜 へ まる夜明けへ消えるのを血にまみれた旅人が嘆
く私達は   たされ何れ堕ちる事すら忘れ唯伝わる兇器を甘
受する嗚呼何と甘い泥満たされる心臓が爛れ堕ちるほどの馨し
く私達を満たす其れこそが私の汚泥貴方の汚泥いつか見る答え







              導
              く
              と
              こ
              ろ
              、
              い
              ず
              こ
              な
              り
              と
              も




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